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Showcase Vol.2 Stockholm × Tokyo × Object ~作曲家座談会 1



・ グロボカール、ベリオ、複雑系、年齢による作曲傾向の変化  


(参加者:宗像礼、渡辺裕紀子 インタビュアー:森紀明)


森:じゃあ早速よろしくお願いします。

色々ちょっと今日は網羅的に聞けたらと思うんですけど、最初に宗像さんが今回帰国されている目的のコンサートについて少しお聞きかせ願えますでしょうか?

あの企画は、グロボカール(注1)と宗像さんの曲をやるというものなんですよね?


(注1:ヴィンコ・グロボカール、スロヴェニア系フランス人作曲家・トロンボーン奏者)


宗像:そうですね。で、どっちが先かはちょっと覚えてないんですけど、僕がグロボカールの曲のリハーサルを音楽監督のようにやるんですね。そして僕の新曲も一緒にやるんですよ。


森:長い曲ですよね、新曲。


宗像:うん。どのくらいなのかな、多分20分くらいなのかな、僕の曲は。ただ、グロボカールはもっと長いですよね(笑)。やり方によりますけど。


森:グロボカールをやるっていうのは、主催の太田さん(注2)と山田さん(注3)のアイデアだったんですか?


(注2:ソプラノ歌手の太田真紀さん、 注3:ギタリストの山田岳さん、)


宗像:ええ。太田さんと山田さんが、ナヤ・コレクティブ(注4)の福永綾子さんとコラボして、やるという感じですね。


(注4:ナヤ・コレクティブ、コンサートやイベントの企画制作を行っている会社)


森:グロボカールと宗像さんの曲をやるというのは、最初のオファーからそうだったんですか?


宗像:そうですね。まあ多分、グロボカールをやりたくて、でもこれ誰かまとめてくれる人がいないとね、という話で、じゃあ宗像さんに聞こうか、それだったら新曲も頼もうみたいな、そうなんじゃないかと笑。


森:ところで、宗像さんグロボカールって以前やられたことはあるんですか?

宗像:あんまりないんですけどね、あの、2年前に裕紀子ちゃんも一緒のプロジェクトがあったんですよ。


森:Curiousのですか?


Curious Chamber Players、スウェーデン、ストックホルムに本拠を置く、宗像さんが共同創設者であり音楽監督を務める現代音楽アンサンブル)


宗像:そうそう、そうです。裕紀子ちゃんの「nonoji」っていう曲と、グロボカールの「?CORPOREL」、体叩くやつ、あれもやったんですね。それをその時は、Team building projectみたいな感じで、Curiousのメンバー4人で録音もビデオ撮影も自分たちでやって、みんな全然プロではないんですけど、「これどうやって録るかな」とか納得いくまでディスカッションしてやったんですね。すべてのプロセスをメンバー全員で一緒にやるっていうのがプロジェクトのアイデアで。その時に裕紀子ちゃんの曲とグロボカールも一緒にやったんです。


森:なるほど。


宗像:で、グロボカールって結構はちゃめちゃなイメージがありますけど、実はかなり緻密に書かれた譜面で、かなりストラクチュアルで、ものすごくロジックと数学を使って書いたみたいな感じですね。


森:数学的。


宗像:数学的というかなんというか、ちゃんと計算してあるみたいな。


森:ふーん。


宗像:例えばさっき話した「?CORPOREL」 だったら、パッと見た感じだと、多分結構クレイジーで、ヴィジュアルな曲なのかなと思うんですけど。実はあの、最初は座ってるんですよね、で、最初のフォーカスが顔から、もう細かいところからどんどん動きの幅が広がっていくんですよね。それがしばらく進むと、座ってるところから寝るとか、立つとか。そういうのがすごく計算された感じの書き方ですよね。


森:なるほど。動きの範囲が広がるのと、時間の経過みたいなのがよく計算されているっていう。


宗像:そうそう。で、一番最後にやっと立つんですけど、立つとなんて言うのかな、パフォーマンス・スペースが変わるみたいな。それをしっかり考えている作曲家だなと思いましたね。


森:なるほど。


宗像:今回やる「Par une forêt de symbols」 もそんな感じですね。今回やる曲は、ミュージシャンが6人ですけど、一人ずつなんて言うのかな、自分のアイデンティティーがあって、そのアイデンティティーの殻に入ってるみたいな。で、曲を通してだんだんそれが、剥けてくるというか。


森:自我が出てくるような感じ。


宗像:ええ。で、この曲もかなり、例えばトロンボーンの人は、クロノロジカルに考えると、4番奏者っていうパートがあるんですけど、それはまず最初に、「自分のために吹く」、次は、「あなたのために吹く」、でその後、「彼のために吹く」とか、「オーディエンスのために吹く」とか色々あって、それを一通り行くと、次は「自分に対抗して吹く」、「自分に抵抗して吹く」、「あなたに抵抗して吹く」、そしてしまいには、「実在しない人間のために吹く」とかね。


森:なるほど。


宗像:面白いですよね。


森:それはぜひ、公演できたらいいですよね。


(座談会収録日は2021年1月6日で公演は1月11日。緊急事態宣言が発出される直前で、開催できるか危ぶまれていた。)


森:ちなみに今東京の現代音楽シーンではグロボカールがちょっと流行りつつあるような気がするんでけど。


宗像:え、そうなんですか?


森:結構取り上げる人が多いような気が。


宗像:へえー、僕よくわからないんですけど、Facebookとかチラッと見るとパフォーマンス・ベースの曲よくやってますよね。アペルギス(注6)のトリオとか、カーゲル(注:7)とかよく見る気がします。


(注6:George Aperghis、劇的要素を含んだ作品でよく知られるフランス在住のギリシャ人作曲家)

(注7:Mauricio Kagel、アルゼンチン出身でドイツで活躍した作曲家、音楽劇で知られる)

森:ちなみに宗像さんから見て、グロボカールの現代性とか、今取り上げる意味みたいなものって感じたりしますか?こういうタイミングで、みんなやりたいって思うのはどういうことなのかなって。


宗像:個人的には面白い方向性かなと思いますね。僕のバックグラウンドから言うと、スウェーデンにいると、なんて言うのかな、スウェーデンで先進的、先鋭的なことをやりたいと思うと、ドイツの方に行きたいなというのがあるんですね。でも、ダルムシュタット (注8)とか、ドナウエッシンゲン(注9)とか、かなりマルチメディアが増えて、ビジュアル系が増えて、何かテクノロジカルなことばっかりで、そういう方向は僕興味ないんですよね。グロボカールって生々しいというか人間臭い音楽というか、ある意味そういうものとは正反対なところがあるから、そういうところが僕は大好きですね。


(注8:ダルムシュタット現代音楽講習会、2年に一度ドイツで行われる世界的な現代音楽祭の一つ)

(注9:ドナウエッシンゲン音楽祭、同じくドイツで毎年行われる世界的な現代音楽祭の一つ)


森:そうしたら宗像さん自身の美学というか、方向性と重なる部分がある感じなんですね。


宗像:ああ、そうかもしれないですね、うんうん。


渡辺:ちょっと質問していいですか?少し前にベリオ(注10)のセクエンツァ(注11)のことを調べていたんだけど、ベリオとグロボカールの関係性について、宗像さん何か、


(注10:Luciano Berio、20世紀を代表するイタリア人作曲家)

(注11:べリオが作曲した器楽ソロ作品群、計14曲からなる)


宗像:え、何か関係あるんですか?


渡辺:あの、ベリオのセクエンツァを初演したのがグロボカールなのかな?


(初演者はStuart Dempster。グロボカールはしばしば再演を行った。)


森:5番をってことですかね?


渡辺:うん、でセクエンツァの5番、トロンボーンのやつで「Why?」って突如演奏家が話す部分があるじゃないですか。あの作品では、「why?」以前と以降で、異なるインタ―プレテーションが指定されていて、「why」の前までは、「パフォーマンス的」に、そして「why」以降は、「空(から)のホールでリハーサルするみたいに演奏するよう」注意書きされているようなんですよね。だから、この「why」を何かの合図、もしくは狭間のような意味合いだと勝手に推測すると、所謂演劇界で言う「第四の壁」を破る、ということにも繋がってくるのかなと思ったんです。あの瞬間に、空間の質がガラッと変わってしまう。で、そういうのをグロボカールは引き継いでいるというか受け継いでいるのかなとか。今、空間の話を聞いているとそういうのもあるのかなと思ったりしました。


(渡辺裕紀子さんの「楽器法ミニコラム」へのリンク。ベリオのセクエンツァについての記事あり https://note.com/yukikocomposer/n/n3a6d82f64fe9


宗像:おー、面白いねえ。なんかそこまでディテール覚えてないな、あの曲。「ワーワーワーーン」ってのは覚えてるけど。


渡辺:そうそう、「ワーワー」ってやって、


宗像:「カチャカチャカチャカチャカチャ」っていうの。


渡辺:そう、そうやって。今宗像さんが、グロボカールの作品で、自分に演奏したり、誰かに演奏したりでその関係性が変わるっていうのは、セクエンツァにもそういう要素があるなって思って、もしかしたら関係があるのかなと。


宗像:おー、考えてみる。


渡辺・森:笑


宗像:へー、面白いよね。でもなんか、譜面の書き方とかちょっと似てるよね。


渡辺:あー、そうなんですかね、関係性が?


宗像:うーん、なんかリズムの書き方とか


渡辺:あー、確かに。なんか次元を超えていく感じが似てるなと思うんですけど。


宗像:おーおーおー。両方ともあれよね、メロディーがあったら、そのメロディーを作る要素を、例えば、ダイナミクス、リズム、ピッチ、それをバラバラに砕いて、それを混ぜるみたいなことしますよね、二人とも。


渡辺:はあー、要素をレイヤーにして、みたいな。


宗像:うん、レイヤーにして考えてるよね。例えば、ベリオがよくやるのは管楽器だったら、フィンガリングと、タンギングのリズムがコーディネートしなくて、バラバラに書いてある。で、さっき話したグロボカールもそういう要素あるよね。どっち向いて吹けとか、それはまた違うパラメーターで書いてあって。


渡辺:あー確かに、身体性を分解していくみたいな?


宗像:そうそう。あと彼がよくやるのは、舌をどこにつけて歌うか、しゃべるか。


渡辺:うんうん


宗像:普通にしゃべってるのでなく、舌を、このパレート(口蓋)の後ろにつけなさいっていう指示がある。でもその指示だけなんですよね、変なのは。舌を口蓋の後ろにつけて、結果、こもった感じの声になる。舌をつけることによって音を変える…みたいにして、そこに即さないパラメーターをつけるみたいな。


渡辺:あれですかね、複雑系の走りみたいなところあるんですかね?


宗像:あると思いますね。


渡辺:うーん、なるほど。


宗像:でもそう考えると、僕も作曲でそういうテクニックというか、そういう書き方してますね。それこそ昔はそういうの、わーっていっぱいやったんですけどね、最近はもうちょっとナチュラルにみたいな。


森:パラメーター・コントロールの鬼だったんですね。


宗像:あー、かなりずらしてましたね。前に、2007年かな、フルートソロの曲を書いたあたりが(複雑系的な作曲の)ピークだったかな。昔はそれこそファーニホウ(注12)みたいな曲を書いてて。ビャッパップップッビャッパッ!みたいな笑。


(注12:Brian Ferneyhoughイギリス人作曲家。非常に複雑に書かれた楽譜を用いた作品で知られる)


森:ふふふ。笑 聞いてみたい。笑


宗像:ふっふっふ笑 でも裕紀子ちゃんもそういうところあるんじゃない?


渡辺:そうですね。若い頃は色々書いてた。


宗像:まだ若いじゃない笑。


渡辺:笑。いやいや、そういう若い頃に複雑な曲を書く傾向ってあるじゃないですか。割とみんなあるんじゃないかなと思うんだけど。


宗像:うーん?


森:パラメーター・コントロール系の人って、歳をとってもあまり変わらないイメージがあります。ファーニホウとか今も変わらない気がするし。でもやっぱり変わっていくものなんでしょうかね?


宗像:変わると思いますよ。超変わると思う。


森:僕が最近見たことがある宗像さんの譜面だと、パラメーターをいじってコントロールするというよりは、割と奏者の裁量に任される部分が多いじゃないですか。何か作風が変わるきっかけってあったんですか?


宗像:これ前にも裕紀子ちゃんにも話したんですけど、でもちょっと違うかな


森:子供ができてから?


宗像:あーそうそう、前に話しましたよね。でもそれとはちょっと違うんだけど、でもね、そのあと結構楽になりましたよ、パラメーター。書く量が少なくなったし笑。


森・渡辺:笑


宗像:昔は変なリズムを一生懸命書いてたんですけどね。でもあんまり、ある時点で多分なんでもいいような気がしてきたんです。リズムだったらリズムで、細かく書けば書くほど、自分はイレギュラーなことをしたいだけなんじゃないかなと、思いました。


森:その変なリズムじゃなくても、イレギュラーだったらいいじゃんって思うようになったと。


宗像:そうそう。前はその、これを書くと特別なエネルギーが出るんだと、考えたりしてたんですけど。


森:それは、そうでもなかったということですか?


宗像:そうみたいですね笑。


渡辺:笑


宗像:あと、作曲すればするほど、自分のアイデアが出てくればいいみたいな。昔はなんか、アイデアがあって書き始めたんだけど、いつもリズムはこういう感じやる、みたいな。いつもダイナミクスはこういう風に書いてる、みたいなのがあったんですけど、最近はもうちょっと、アイデアが出ればいいみたいな。必要のないパラメーターはあんまり頑張らないで、自分の言いたいメッセージだけを強調するみたいな。


森:じゃあやりたいことがクリアになってきて、それを聞かせる為に必要なものが自分でわかるようになってきたと。


宗像:なんかカウンセリングを受けてるみたい笑


森:いやいやいや笑


渡辺:森くんね、いつもそうだから笑。


宗像:素晴らしい笑


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